春の昼下がり、私は塩屋の青い岬に立っている。水平線の彼方には巨大な貨物船。満腹の蝸牛のようにじわじわと進んでいく。

南の竜ケ崎には虹が架かっている。貨物船までは届かない虹。春の海に消えていく。みるみる、消えてしまう。

遠い昔、この青い岬に来たことがある。微熱の中の夢のような記憶。母の春日傘の下で私はいつも持ち歩いている魚眼レンズを磨いていた。見上げれば、母の白い手。あまりに完璧過ぎた春の昼。全ての言葉は消え、海鳴りだけがあった。魚眼レンズに映るきれぎれの雲が、静かに流れていった

いつしか日は西に陰り、親子馬が私の傍までやって来る。長く伸びた二つの影が柔らかに動く。

草を食む馬たちの背に、虫が群れている。ふいに岬の底から風が湧き上がってくる。湿った風が私と馬たちを包み込む。縄文の時代から変わることのない懐かしい潮の匂い。

塩屋崎の海は穏やかにうねっている。